1人で市役所に相談に訪れた女性高齢者について

こんばんは

いつもお読みいただきありがとうございます

 

私が地域包括支援センターに勤務していたころに出会った、印象深い高齢者の方々を連載していきたいと思います

地域包括支援センターは様々な高齢者に関する相談機関ですが、認知症を始め精神疾患を持った方々からの相談も数多く寄せられます

 

(単独で市役所まで・・・)

ある日、この女性高齢者は1人で市役所内にある地域包括支援センターを訪れました。

体は比較的お元気ですが、表情は険しく、何かに怯えている印象がありました

まずはお話しを伺おうと面談室にお通しし、その女性に向き合ったところ、同居する娘夫婦からの嫌がらせの数々を訴えだしたのです

感情の起伏も大きく、涙ながらに訴える姿に必死とも言える印象を受けました

 

(娘夫婦から受ける嫌がらせとは)

女性の訴えによれば

・自分の部屋で寝ていたら音を立てずに入ってきて、時計とか部屋に置いてあるものを持っていく

・娘夫婦は何やらこそこそと話している、次にどんな嫌がらせをしようか相談しているにちがいない

・私が1人食事をしていたら変な匂いが漂ってきた、毒を入れ私を殺そうとしている

・娘の夫は勝手に私の通帳や印鑑を持ち出し、お金を引き出している

・娘はわざと玄関の戸を閉め、閉じ込めた

など、など

本人はこれらの嫌がらせの数々からほとんど寝ておらず、ろくに食事も摂れずで憔悴しきっていると言う

 

(さて、このお話は本当だろうか?)

女性は必死に訴え、嘘ぶる様子は微塵もみられない

事実の確認も兼ねて娘夫婦が不在の折、自宅を訪問することにしました

 

在宅する本人を訪ね、あらためて娘夫婦からされる嫌がらせについて伺いました

最初は落ち着いた様子でしたが、話だすと感情も加わって、また涙をこぼされます

びっくりしたのは本人の部屋をのぞいたときです

開き戸の周囲にガムテープが張り巡らされてあったのです

開け閉めする際に剥がれるので、常に補修しているとのこと

・娘やその夫は毎晩部屋に入ってくる

・この間「こらっ!」と言ったら見つかったと思ったのか、慌てて出ていった

・怖くて、怖くて、足音がするたびにびくっとする

本人はそう訴えます

 

戸に張り巡らされてあったガムテープを見て、これは「妄想?」との疑いを持ち出しましたが、否定は禁物

本人の訴えを受容、共感し、できるだけ寄り添うように心がけました

 

(娘との面談)

本人からすれば加害者である娘との接触に成功

本人には内緒ということにして、本人が訴える内容を娘に伝えたところ、

娘は

・最近、母の様子がいつもと違う

・感情の起伏が激しく、私や夫を避けようとする

・朝も私たちが出て行くのを見計らって起きてきているみたい

・私や主人はそんなことはしていない

・一緒に買い物に出かけたりもするんだけど・・・

と言う

 

(その後の本人はというと)

本人の訴えは治まらず、その後も日を置かず相談に訪れます

しかも、訴えは回を重ねるごとにヒートアップし、本人は娘夫婦との生活に耐えかねたとして家出すると言い出したのです

 

(精神科受診に)

娘とも対応を相談

・本人の感情の起伏と訴えの内容自体は整合性のあるものであり、虚偽のものとは思えない

・ガムテープを張り巡らすといった行為、訴えの内容に一種独特なものを感じる

そして、娘の言動や様子から加害者たるものは窺えない

以上の理由から妄想などの精神疾患の可能性があると判断、本人に受診を促すことを娘と申し合わせました

とはいっても、敵対する娘の同行は難しく、本人にしては受診する理由がない

いかに本人を受診の舞台に載せるかである

 

本人が相談に来る機会を待ち、眠れないという訴え、そして家を出るために必要として「健康診断のために病院に行く」というシナリオを企てました

そして本人が訪れました

シナリオ通りに進めたところ、最初は渋っていましたが「家を出る」とのキーワードから了解を得ることが出来ました

本人の記憶力はしっかりしています

受診予約をして、私も同行し受診することを約束しました

この記憶力の確かさも、妄想を疑った理由の一つです

 

本人がしっかりしてる分

・どうして精神科?

と気づかれ、受診拒否になるのではと最初は心配しましたが、結果的にはうまくいきました

それから毎月1回本人との病院通いが始まりました

 

(診断は?)

心理テスト、画像評価、問診と続き、診断は「妄想性障害(パラノイア)」でした

薬が処方されましたが、さて本人がきちんと服用するかどうかです

「家を出る」というキーワードが功を奏したのと本人の真面目さから服薬はきちんと行われ、妄想症状の軽減に期待しました

しかし、受診ごとに評価を重ねますが、あまり効果はみられません

いろいろな薬を試してみたものの同じでした

 

(その後・・)

ちょっと目線を切り替えて

「十分な睡眠につなげる」これに絞りました

するとどうでしょう

妄想は止まりました

本人も気が抜け、生気がなくなった感も

 

その後、娘の意向もあって本人をその病院の精神科デイケアにつなげました

居場所を見つけられたのでしょうか、本人も休まず行くようになり、支援をケアマネージャーさんに託して支援を終結

 

(まとめ)

この女性への支援を振り返ると

•円滑に支援を進めるには、信頼関係を築くことが第一

•妄想という病態を踏まえると、とことん共感し寄り添うこと

•そして、この人は味方だと認識させること

•客観的にケース全体を見て、先入観から娘を捉えないこと

このようなところでしょうか

 

🌟 関心のある方はどうぞ

 

 

長文になりました

それでは、失礼いたします